テキサスホールデムの基礎知識

Theory of Poker

 David Sklanskyは、1987年にその著書「The Theory of Poker」において、「ポーカーの基本理論」なる概念を提唱しました*1。ポーカーの基本理論とは、

  1. 自分が自分以外のプレイヤーのカードもすべて見ることができた場合と同じようにプレイできた場合には、その勝負に勝つことができ、また、
  2. 相手が自分以外のプレイヤーのカードもすべて見ることができた場合と違うプレイを、相手にさせることができれば、その勝負に勝つことができる、

というものです。
この理論は、発表されて20年以上も経ちますが、未だポーカー戦略の多くの基礎となっています。後述のブラフやスロープレイなどのテクニックは、2を実現するために行われるものです。

アウツ、オッズ、期待値

 ポーカーをプレイする上で重要な概念として、「アウト(アウツ)」、「オッズ」と「期待値」というものがあります。

(1)アウツ

 アウトとは、「自分の手を強くするカード(の枚数)」を指します。例えば、自分のハンドが54oで、フロップが63Xだった場合、ターンかリバーで7か2が来れば、ストレートを完成することができます。この場合、ストレートを完成させるために必要なカードの枚数は、8が4枚と2が4枚なので、4+4=8枚で、「8アウツ」あることになります。フロップが86Xだった場合には、ストレートを完成させるためには、4枚の7しかないため、この場合は「4アウツ」しかないことになります。
 また、自分のハンドが2枚ともハートで、フロップにハートが2枚出ている場合には、フラッシュを完成させるために必要なカードの枚数は、13枚のハートのカードのうち見えている4枚のハートを引いた9枚のカードが残っているため、「9アウツ」あることになります。
 アウツの概念がなぜ重要かというと、アウツの数によって自分の勝率を概算することができるためです。厳密に計算すると、先程の「オープンエンドストレートドロー」をターンで完成する確率は、 8/(52-5)≒17.0%、リバーまでで完成する確率は、1-(52-5-8)/(52-5)×(52-5-1-8)/(52-5-1)≒31.5%となります。したがって、フロップが開いた時点でオープンエンドストレートドローとなった場合には、ターンでストレートができるのは、5.9回に1回、リバーまで見れれば、3回に1回はストレートができることになるというのが分かります。

 アウツごとの確率は次のとおりです。
アウツ ターン(%) リバー(%) 代表的な例
20 42.6 67.5
19 40.4 65
18 38.3 62.4
17 36.2 59.8
16 34.0 57
15 31.9 54.1 オープンエンドストレートフラッシュドロー
14 29.8 51.2
13 27.7 48.1
12 25.5 45 インサイドストレートフラッシュドロー
11 23.4 41.7
10 21.3 38.4
9 19.1 35 フラッシュドロー
8 17.0 31.5 オープンエンドストレートドロー
7 14.9 27.8
6 12.8 24.1
5 10.6 20.4
4 8.5 16.5 インサイドストレートドロー
3 6.4 12.5 ペア
2 4.3 8.4 トリップス
1 2.1 4.3 フォーカード

 これらの数字についてすべて覚えるのは困難であり、かつ、その必要もないと思われますので、大体アウトの数の4倍がリバーまでにその手ができる確率と覚えるのが簡単な方法のひとつです。
(例:4アウツの場合は4×4=16%、9アウツの場合は9×4=36%など)

(2)オッズ

 アウツの概念とともに重要な概念として「オッズ」があります。オッズとは確率のことです。古くからギャンブルにおいては、確率のことをオッズと呼称し、自分の賭け金が勝率に照らして「割に合う」場合には、「オッズに合う」などと表現されてきました。
例えば、コイントスで表裏を当てたら賭け金を1.5倍にして返すというゲームがあった場合、このゲームをすることは合理的でしょうか。表か裏か当たる確率は1/2なのに、当たった場合でも賭け金は、1/2の逆数である2倍より少ない数しか返ってこず、長期的には必ず損をするようになっています。この場合、帰ってくる賭け金が2倍以上でなければ「割に合わない」ことになります。
 同じことがポーカーにも当てはまります。2アウツしかなく勝率8.4%しかないのに、フロップでポットの半分の額のベットをコールすることが「割に合う」でしょうか。ここで割に合うか合わないかを判断する際に非常に役に立つのが「オッズ」又は「ポットオッズ」という概念なのです。
 「ポットオッズ」とは、ポットの大きさとポットを得るための勝負を継続するために必要なベット額の大きさの比率のことを言います*2
 例えば、400ドルのポットで相手が100ドルベットしてきた場合、コールする場合のポットオッズは、1/6です。このとき、例えば、ターンの時点で8アウツのオープンエンドストレートドローがあって、ストレートができればポットを取れると考える場合、リバーでストレートができる確率は約16%で、約6分の1の確率でコールの6倍のリターンが得られるわけですから、この場合、コールすることは割に合うこととなります。同じように考えると、ポットが例えば100ドルしかなかった場合に相手が100ドルベットしてきた場合は、リターンが3倍しかないので若干割りに合わないということになります。
 オッズに関してもうひとつ有益な概念として、「インプライドオッズ(implied odds:推定オッズ)」というものがあります。インプライドオッズとは、現時点のポットの大きさではなく、勝負が終わった時点に予想されるポットの大きさを基に計算されるオッズのことです。例えば、自分がAハイフラッシュドローなどの強いドローハンドを持っていて、コールしてくるプレイヤーが大勢いるテーブルの場合、現時点のポットが80ドルでベットが100ドルだった場合、9アウツでターンでフラッシュを引ける確率は19.1%で、リターンが2.8倍のため、現時点では割に合いませんが、2人ほどコールしたり、またリバーまでコーラーが出てくると予想できる場合には、最終的に獲得できるポットのサイズが、500ドル以上に膨れ上がることが予想できます。その場合の最終的なポットの大きさを基に計算されるオッズのことをインプライドオッズといい、アグレッシブなプレイヤーは、現時点のポットオッズが合わなくてもインプライドオッズに合うと判断してコールすることもあるのです。ポットオッズと勝率の関係は、ポーカーの戦略の中でも最も重要な考え方のひとつです。
 インプライドオッズから派生した概念のひとつに「リバースインプライドオッズ(reverse implied odds)」というものがあります。これは、勝負が終わった時点に予想される損失を基に計算されるオッズのことで。例えば、7c2dを持っていてフロップ7h3s4sだった場合、フロップの時点では、トップペアで勝っているかもしれませんが、相手がベットしてきた場合、相手には更にハンドを向上されるアウツが多くあるにも関わらず、自分にはアウツがほとんどないため、推定される損失を基にオッズを減らす等の調整を行い、コールするか否かを決定するというものです。

(3)期待値

 「期待値(Expected Value(EV))」とは、賭けたチップに確率を掛けることで、最終的にどの程度の見返り(リターン)が得られるかを数値化したものです。例えば、勝率50%の勝負に100ドルの賭け金を賭ける場合には、50ドルの期待値があることになります。自分のベット・コールがオッズに合うかどうかを計算する際に必ず必要となる概念です。

*1:David Sklansky, The Theory of Poker, Two Plus Two Publications, pp17-18 (1987) 

*2:David Sklansky, The Theory _of Poker, Two Plus Two Publications (1987)

1−3 基本的なハンドの勝率

 オッズの計算に際して、ヘッズアップ時における基本的なハンドの勝率を覚えておくと有用です。代表的なものは次のとおりです。

ハイペア v. スモールペア   → 大体80%:20%
 例: AA v.33

ポケットペア v. ツーオーバー → 大体5X%:4X%
 例:99v.AK

ポケットペア v. ツーアンダー → 大体85%:15%
 例:KKv.75

ポケットペア v. ワンオーバー → 大体70%:30%
 例:99v.A7

ポケットペア v. 低いスーティッドコネクター → 大体77%:23%
 例:QQv.76s

ポケットペア v. オフスートコネクター → 大体80%:20%
 例:JJv.76o

ポケットペア v. 高いスーティッドコネクター → ほぼ五分五分
 例:66v.JTs

ポケットペア v. 高いコネクター → 大体55%:45%
 例:66v.JTo

ツーオーバー v. 低いコネクター → 大体60%:40%
 例:AKv.98o

ワンオーバー v. ゴミ手 → 大体60%:40%
 例:A3v.T2

ドミネイトしているハンド v. ドミネイトされているハンド → 大体70%:20%
 例:AKv.AT

ドミネイトしているハイペアv. ドミネイトされているハンド → 大体88%:12%
 例:AAv.AK

1−4 ポジション

 ポーカーでよく使われる格言の一つに「Position is Power.(ポジションは力なり)」というものがあります。「ポジション」とは、テーブル上の各プレイヤーの座席の位置のことを言いますが、一番最初にアクションをしなければならないボタンの次の位置から始まる最初の3席(スモールブラインド:SB→ビッグブラインド:BB→アンダーザガン:UTG)をアーリーポジションといい、次の3つをミドルポジション(MP)、最後の3〜4つをレイトポジションといい、一番最後にアクションするプレイヤーのポジションを(ディーラー)ボタンといいます。また、ボタンの一つ前のポジションはカットオフ(CO)と呼ばれ、その前のポジションはハイジャック(HJ)と呼ばれます。
 ポーカーは不完全情報ゲームなので、情報をより多く得たプレイヤーの方が有利になるという特徴があります。したがって、原則として、相手のアクションを見てから自分のアクションを決められる後ろのポジションに位置するプレイヤーの方が、アーリーポジションのプレイヤーよりも有利になることになります。
 ポジションの重要性は、トーナメントポーカーをプレイする上で理解しなければならない最も重要な知識の一つです。ポジションがよくなると、プレイできるハンドの範囲が広がるだけでなく、後述の利益の最大化、損失の最小化、ポットコントロールが容易になるという利点もあるのです。一方、ポジションが悪くなるにつれて、プレイできるハンドの範囲が狭まるだけでなく、ハンドから本来得られるはずの利益を確保することが難しくなります。利益の最大化が困難になるだけでなく、損失の最小化も困難になるのです。このことが多くのプロがポジションの重要性を訴える理由なのです。
 例えば、Full TiltポーカープロのBill Edlerは、ポジションが“力”となる理由として、

  1. アーリーポジションでは、レイトポジションではフォールドしないようなベストハンドを持っているのにフォールドしてしまう可能性があること、
  2. レイトポジションでは、同じハンドでもアーリーポジションにいる場合と比較して、より多くの利益を上げることができること、
  3. 負けているハンドを持っているとき、レイトポジションでは、損失をより少なくすることができること、

の3つを挙げています*1
 ポジションには、「相対的ポジション」というものも存在します。上記のポジションは、ディーラーボタンを起点とした「絶対的ポジション」を意味しますが、例えば、前のベッティングラウンドでベットやレイズしたプレイヤーがおり、そのプレイヤー(オリジナルレイザー)が次のラウンドでもベットすることが明らかな場合には、オリジナルレイザーの次のプレイヤーが実質的に最初にアクションを行うこととなりアーリーポジションのプレイヤーと同じこととなります。そのようなプレイヤーは、たとえボタンにいたとしても、情報が一番少ない状況でプレイをしなければならなくなり、他方、オリジナルレイザーから離れたプレイヤー(オリジナルレイザーの左側のプレイヤー)がレイトポジションのプレイヤーと同様に、すべての情報を入手してからアクションを行うことができる利点を有することとなります。

*1:Bill Edler, Power of Position, Full Tilt Poker Academy; http://academy.fulltiltpoker.com/ja/lessons/video

1−5 ギャップコンセプト・サンドイッチ効果・スクイーズプレイ

(1)ギャップコンセプト

 ポジションの力に起因する重要な概念として「ギャップコンセプト」と呼ばれる考え方があります。ギャップコンセプトとは、David Sklanskyによって提唱された概念で、すでにベットやレイズをしているプレイヤーを相手にする場合(コールするとき)には、自分からベットやレイズをするときよりもより強いハンドが必要となるという考え方のことです*1
 ギャップコンセプトは、先にベットして強いハンドを持っていることを主張しているプレイヤーと衝突は避けた方が無難であるというだけでなく、自分からベットをした場合には、(1)相手が(ベストハンドを)フォールドするか(2)ショーダウンで勝つという2通りの勝ち方があるにもかかわらず、コールする場合には、(2)のショーダウンで勝つ方法しかないということにも起因する考え方です。
 ポジションだけでなくギャップコンセプトによっても、一般的には、後ろのポジションに近付くにつれてより弱いハンドでも参加することができると言えることとなります。
 留意しなければならないのは、ギャップコンセプトにおける「ギャップ」、すなわち通常の場合のハンドの強さと先にレイザーがいる場合に必要とされるハンドの強さの「ギャップ」は、ブラインドに比してスタックが十分にあるトーナメントの序盤や何でもレイズするようなマニアックなプレイヤーに対しては、小さくなるという点です。Dan Harringtonは、レイザーが超アグレッシブなプレイヤーの場合には、そのポジションでもともとレイズできるようなハンドを持っている場合は、どんなハンドであってもリレイズし、同じように、そのポジションでリンプインできるようなハンドより少しだけ強いハンドの場合はコールすべきだとしています*2
 また同様に、ブラインドがスタックに比して大きくなるようなトーナメントの終盤やレイザーがタイトなプレイヤー場合には、「ギャップ」は大きくなることとなります。この場合には、レイザーに対しリレイズするためには、より強いハンドが必要となります。

(2)サンドイッチ効果とスクイーズプレイ

 ギャップ効果と関連する概念として、「サンドイッチ効果」というものがあります。この考え方は、自分よりあとにアクションするプレイヤーがいるときは、後ろのポジションにプレイヤーがいないときよりも強いハンドを持っていなければならないという考え方です*3。最終的に何人のプレイヤーが勝負に参加するか、リレイズにコールしなければならなくなるか分からないので、(後にプレイヤーがいる場合には)実際のポットオッズを計算することはできません。したがって、このような不確実な状況下で「割に合う」プレイをするためには、より強いハンドが必要となるというものです。
 サンドイッチ効果を活用したプレイのひとつに「スクイーズ(絞り取る)プレイ」とよばれるものがあります。例えば、アーリーポジションからレイズがあって、コーラーがいたとします。レイトポジションのプレイヤーがリレイズをした場合、もともとのレイザーは、より強いハンドを主張しているリレイザーと後ろに控えるコーラーとの間で「スクイーズ」される(絞られる)こととなります。仮にオリジナルレイザーがコールしたとして、コーラーが強いハンドでスロープレイしている場合には、さらにリリレイズされることもあり得ます。したがって、このような状況では、オリジナルレイザーは、プレイを続けるためには相当強いハンドを持っている必要があるので、普通はフォールドすることを選択することになります。このようにサンドイッチ効果を活用してレイザーをフォールドさせるプレイをスクイーズプレイと呼びます*4

(3)リスクイーズ

 スクイーズプレイについては、Harrington on Hold’emで紹介されて以来非常に一般的な戦術となっているので、ある特定の状況においては、これを活用して更に利益を最大化することも可能となります。例えば、非常にアグレッシブなプレイヤーが後ろにいる場合で、自分より前のプレイヤーがレイズしてきた場合、後ろのアグレッシブなプレイヤーにスクイーズプレイをさせるために、非常に強いハンド、例えばAAやKKでコールをし、後ろのプレイヤーがスクイーズプレイのためのリレイズをするのを待つこともできます。後ろのプレイヤーがリレイズしてきて前のプレイヤーがフォールドした場合、更にリレイズすることで、ハンドをプロテクトするとともに利益を最大化することも可能となるでしょう。

*1:David Sklansky, Tournament Poker for Advanced Players, Two Plus Two Publications (2001).

*2:Dan Harrington and Bill Robertie, Harrington on Hold’em: Expert Strategy For No-Limit Tournaments; Volume I: Strategic Play, Two Plus Two Publications, p190 (2004).

*3:同上p189.

*4:同上pp206-208.

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